発信者情報開示の手順

インターネット上で嫌がらせなど(名誉,プライバシー権の侵害)を受けた場合,プロバイダに対して,その嫌がらせなどをしたもの(発信者)の情報の開示を請求することができます(プロバイダ責任法)。
そのための書式などは,プロバイダ責任制限法関連情報webサイトにも掲載されています。それを使うなりしてプロバイダに直接請求して,開示に応じてくれば問題はありません。
しかし,請求しても応じないときは,法的手段に訴える以外にありません。以下にその手順等を記します。
まずは,どこの裁判所に申立てるかです。財産権上の訴えに当たらないとされていますから,訴額は160万円になり,地方裁判所が管轄になります。開示請求の相手は,たいてい法人でしょうから,その主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所になります。東京都23区内に本社のある会社なら東京地方裁判所になりますね。
外国法人の場合は、日本において事業を行う者に対する訴えで、当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるときは、東京地裁に申し立てることができます。
また,相手が法人なら,その法人の登記事項証明書等も必要になります。

民事保全(仮処分)の活用

発信者のアクセスログは,短期間で廃棄されてしまう可能性があるので,通常の裁判手続をとっていては,手遅れになる可能性が大きいです。そのため,仮処分の申立をまず行うことが有効です。
ところで,プロバイダには,「2ちゃんねる」のような発信者が書き込んだりでき,それを多数の者が閲覧できるようにするサーバー設備をもっている「コンテンツプロバイダ」と通常インターネットの契約をするときの相手であるいわゆるプロバイダ(経由プロバイダ)の2種類があり,そのどちらに対しても開示請求が可能ですし,双方に開示請求しないと発信者を特定できないことが多いでしょう。
通常は,第一段階として,コンテンツプロバイダに請求し,それで経由プロバイダが,判明するので,第2段階として,経由プロバイダに請求するという手順になります。
仮処分の「申立の趣旨」記載例ですが,コンテンツプロバイダに対しては,

「債務者は,債権者に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を仮に開示せよ。」とし,まずこれによって、経由プロバイダを突き止めます。

そして、経由プロバイダに対しては,

「被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を消去してはならない。」とします。
(仮処分においては、「消去するな」と求めることしかできないとされていますので、さらに情報開示自体を求めるには、訴訟が必要になります。しかし、この段階で、経由プロバイダが任意に開示に応じて来れば、解決します)

別紙発信者情報目録の記載例

・コンテンツプロバイダに対するもの

(別紙) 発信者情報目録
本件情報又は本件発信者に関する以下の情報
1 (氏名又は名称)
2 (住所)
3 電子メールアドレス
4 IPアドレス
5 タイムスタンプ

※ただ,実際にはコンテンツプロバイダの段階では氏名住所はわからないので,この段階の目的は,経由プロバイダを明らかにするということになります。

・経由プロバイダに対するもの

(別紙) 発信者情報目録
本件発信者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス

以上に加えて,仮処分の場合,「保全の必要性」を記載する必要があります。
保全の必要性とは,この場合,発信者の情報をプロバイダに削除されてしまっては,発信者を特定できなくなり,損害賠償請求などが不可能になってしまうこと,です。
したがって,プロバイダにおいて,長期間これらの情報を保存していないことを示す資料が必要とされています。
さらに,具体的に,どのような嫌がらせを受けたかなどは,仮処分に限らず,書いていくことになるでしょう。
当然,資料(証拠)として,当該の書き込み等を印刷したものを添付する必要があります。

仮処分決定が出たら

仮処分の申立を行い,決定が出ても,通常それだけでは開示されません。保全執行といって,仮処分命令の内容(今回は発信者情報の開示)を実行させる申立を行う必要があります。
また,経由プロバイダに対する仮処分は,「消去せずに保存しておけ」というのものなので,開示を裁判で求めるには,さらに通常の訴訟(仮処分に対して「本訴」といいます)を起こす必要があります。

まとめ

コンテンツプロバイダが、開示に応じないので、まず、コンテンツプロバイダにたいして仮処分の申立をしたいということであれば、上記の第一段階の申立のみで済みます。書き込み等が明らかに悪質なものであれば、経由プロバイダは、争わずに開示に応じてくるケースが多いでしょう。
申立の書式自体は、特別に難しいものではありませんが、当該書き込みが名誉毀損やプライバシー侵害に当たることを説明する(仮処分なら「疎明」)必要があること、保全の必要性も書く必要があることから、これらの内容については、専門家の支援を得たほうがよいかもしれません。
こうした内容を、どう書いたらよいのかについては、裁判所では当然ながら、一切教えてはくれません。
その反面、手続に関することは、教えてもらえますし、教えてもらうべきでしょう。
特に、この発信者情報開示請求の仮処分は、数多いものではなく、裁判所独自の運用もあるで、自分で適当なものを作ってしまう前に、形式の面については裁判所に教えてもらうことは有益です。